4ピアメディエーションとEAPとの結合 ティグレグループの取り組み

ティグレグループの取り組み

 

 ティグレグループのピアメディエーションに関する取り組みの経緯は次のとおりです。

2015年から、全社的にEAPの取り組みを開始し、各種ヒアリング、実態調査、導入オリエンテーションを踏まえて、セルフケア・ラインケア、第1次、2次、3次予防といったメンタルヘルスの基本、自殺やメンタル不調者への対応、ストレスチェック等の研修、メール相談等を実施していきました。

 その後、職場のコミュニケーション環境をさらに上質なものに発展させていくには、ピアメディエーションを導入すべきであるとという議論を踏まえ、さまざまな取り組みが展開されました。

 

 具体的には次のような研修が実施され、他方ピアメディエーションに関する社内クラブが結成されました。

 

管理監督者に対する研修

 

2016年11月18日(参加者62名)

「EAP研修〜1次予防としての職場づくり〜」

ピアメディエーションの基本に関する研修

価値観ワーク 「8つの価値」(権力、意欲、学歴、愛情、住居、金銭、誠実等)を実施する。

 

2017年11月17日(参加者58名)

EAP研修 ピアメディエーション

〜紛争解決を通して学ぶ職場づくり〜

価値観と合意形成について、グループワーク「終着駅」を実施する。

 

2018年11月16日(参加者67名)

EAP研修 「トラブルを通じて学ぶ職場づくり」

ロールプレイを参加者全員で実施する。ロープレの教材は、オリジナルの「温度差」、「終業時間」、「立場と責任」 の各ケースで行う。

 

2019年7月18日(参加者73名)

EAP研修 「トラブルを通じて学ぶ職場づくり」

  メンタルヘルスの観点からのピアメディエーションの視点で、メディエーションの本質、ロールプレイによる実践を実施する。

 

ティグレPMC(ピアメディエーションクラブ)の結成

 

 企業において、最初から全社的にピアメディエーションに取り組むのは、無理がありますし、取り組むにしても、上記の研修のように時間をかけて少しずつ内容を深化させていくことになります。

 そこで、少数のメンバーでより高度な内容を学習・実践していく部隊として、クラブを創ることにし、そのメンバーが今後のティグレグループ内でのピアメディエーションのリーダー的存在になることを期待しました。

 ティグレの役員にクラブのメンバーを10数人選出してもらい、月1回、3時間程度のクラブ活動を展開することとしました。

 第1期は、2018年10月に創設し、第2期は、2020年7月から、第1期とは全メンバーを入れ替えて、同様の活動を展開しています。

 

 高校のクラブとは違い、扱う内容はかなり実践的になります。職場での人間関係に関するトラブルや、取引先あるいは会員とのもめごとが俎上にあげられます(ティグレの場合、全国に個人会員、法人会員が存在し、ティグレの従業員は日常業務として会員と接することになる)。

 クラブでの研修、たとえば価値観ワークや傾聴ワークは、常に日常業務にフィードバックさせて、自己の業務における検証をしながらの学習なります。したがって、議論の内容はより実践的であり、具体的できわめて切実なものになる場合もあります。

 

 クラブでは、企業における実践例をより多く引き出すために、クラブ員に「クエスト」と題するテーマを提示し、テーマに即した自らの経験を事案にまとめて提出してもらい、それに基づいて議論をし、共有化を図っています。たとえば、「クエスト」のテーマとして、コミュニケーションに関する紛争事例やウイン・ウインに関連する事案などです。

 このクエストに基づくワークの意義は、第1に、より多くの具体的な業務における実践例を収集することは、今後のピアメディエーションの研究・教育の発展に必要不可欠な点にあります。

 第2に、ともすると、ピアメディエーションのワークは、ロープレ重視になりがちですが、角度を変えた実践研修がコミュニケーション能力の向上や管理監督者として分析能力、指導者としての指導力の涵養に役立ちます。

 たとえば、会員が遭遇したトラブルにクラブ員が仲介役として介入した事案をクラブ員全員で検討しました。この際、クラブ員は、報告者に対し事案について様々な質問をしますが、決して報告者に対する批判をせず、あるいは私ならこうするといった指導めいた発言はありませんでした。このような質問が続く中で、次第に報告者自身も当初気づいていなかった当該事案の本質的問題点が明らかになり、報告者自身になんらかの気づきが生まれていました。これは、まさしくPCAGIP(※1)の手法に基づくグループワークそのものです。

 第3に、クエストの事例に基づいて、あらたなロープレのシナリオをクラブ全体の討議を通じて作成します。実際に使えるロープレのシナリオを作成するのはたいへんむずかしいい作業です。この作業を通じて、紛争の構造や、なぜ人はもめるのか、紛争解決には何が必要なのか、解決の条件は何なのか等がわかってきます。

 

なお、参考までに作成したロールプレイシナリオには次のようなものがあります。

  •  投資と利益(コンサルティング)
  •  オーナーと料理長(顧客支援)
  •  残業とワークライフバランス(働きかた)
  •  管理責任(労務管理)
  •  自覚と実績(キャリア)
  •  ボーダーライン(ハラスメント)等々

 

     1※PCAGIP:九州大学村山正治教授、関西大学中田行重教授の開発したグループによる新しい事例検討法。

     「愛(I)」がないのに愛がある手法として有名。シヴィルでは、足利先生を中心に医療・介護現場等におけるPCAGIPの実践を展開する予定です。