職場のピアメディエーション
ピアメディエーションと聞くと、まず学校現場を思い浮かべるかたが多いと思いますが、職場におけるピアメディエーションもきわめて重要です。しかし、実際に企業が、ピアメディエーションを取り組んでいる実例はほとんどないのではないかと思います。随分前に、ニュースで、ソフトバンクが取り組んでいるというのを見たことがありましたので、同社に問い合わせをしましたが、そのような取り組みはしていないとの回答でした。
ティグレの挑戦
ティグレは、株式会社、税理士法人、社労士法人、行政書士法人等で一団のグループを形成し、全国に支店があります(以下ティグレグループと言います)。このティグレが、ピアメディエーションの先進的な取り組みを展開しています。
ティグレグループは、かねてよりEAPに熱心に取り組んでいましたが(EAPの内容に関しては、「EAP」をご参照ください)、EAPの取り組みを進めていく過程で、より一層職場のコミュニケーション環境を向上させていくためには、ピアメディエーションが必要ではないかという議論が深まっていきました。
EAPとピアメディエーションとの関係は?
EAPのメインの課題は、メンタルヘルスですが、職場のメンタルヘルスが低下する最大の原因は人間関係の不全です。アドラーは「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言しているくらいです。職場の人間関係を改善し、コミュニケーション環境を良好にすることが、メンタルヘルス対策の要と言っても過言ではありません。
では、人間関係を不全にする原因ですが、その大半は対人関係におけるコンフリクト(※1)です。コンフリクトとは、衝突や葛藤なども含めて当事者間になんらかの食い違いが生じている状態を意味します。私たちの日常生活はコンフリクトの連続であり、常にコンフリクトと向き合い、処理しながら生活しています。
人間関係におけるコンフリクトの処理を誤ると、ストレスの発生が増大するとともに、当事者間の人間関係だけでなく、職場全体の信頼関係やチームワークにも悪影響を与えます。
そこで、コンフリクトに対する処理を適切に行うためには、職場におけるコミュニケーション能力の向上と対話関係の復活・促進をベースにおくピアメディエーションシステムが有効となるのです。
企業におけるピアメディエーションの意義については、「職場のピアメディエーションの必要性・目的・効果」をご覧ください。
1※コンフリクト:英語の「conflict」のことで、多義的な概念である。
狭義には、「衝突」や「不一致」を意味したり、考えや主張が双方で異なる状況でお互いが「対立」したりすることを意味する。
また、意見や考えでの「矛盾」という意味を含む言葉でもある。そのため、激しい対立や衝突がなくても、双方で意見が食い違っ
たり、考えに大きなズレがあったりする際にも、コンフリクトという表現を使うことがある。
心理学的には、二つ以上の欲求が対立した心理状態という「葛藤」も意味する。
コンフリクトマネジメントの観点から、コンフリクトの概念を広く捉え、「関わっている人同士の懸念事項が、同じ状況でないこと」
であるとする考えもある(コンフリクトマネジメント入門 ケネス W.トーマス)。ここでいう懸念事項とは、いわゆる心配事より
もっと広い意味を持つ「気にかける事柄・事態」を意味するとされる。
その意味で、コンフリクトとは、関わりあいのある相手方と共有する関心事項について、食い違いがあること又はその状態を意味する
と解される。