2茨田プロジェクト~ 1年目

初年度の取組(2006年10月~2007年3月) 

試行錯誤の連続

 

1 卒業クエスト

最初に取り組んだのが「卒業クエスト」という学校設定科目を利用して、コミュニケーション能力に関するトレーニング講座を実施することでした。具体的には、11月30日、卒業する3年生150名を対象に、「社会人になったときの心得」と題し、コミュニケーションの大切さについて、ロールプレイを交えた講演を実施しています。

内容的には、可もなく不可もなくという感じでしたが、とにもかくにもシヴィルが学校に根付いていくための布石的な意味合いのほうが大きかったように思います。

 

 

2 教職員の研修 

教職員の理解を得られなければ、学校におけるピアメディエーションの展開はあり得ません。理解者を増やさなければ、われわれは部屋から外に出ることもできないのです。さらに、ピアメディエーシが学校に受け入れられたとしても、シヴィルが、未来永劫ずっと学校に入ることは不可能です。どこかの時点で、教職員にバトンタッチし、事業を委ねなければなりません。その意味で、教職員のメディエーションに対する理解が必要不可欠であることから,教職員を対象としたピアメディエーシ講座を実施しました(12月7日、1月10日)。これはその後も数年かけて何度も行っています。

 

1回目の講座終了後、導入賛成派の教員の音頭取りで、シヴィルのメンバーと教職員との懇親会が京橋駅近くの居酒屋で行われました。会場で、私の前にたまたま座った若い女性教員は、はっきりと私に聞こえるように「なんで、私がこんな所に来なあかんのよ」と言われました。そのときは、やはり教員の反発には強いのものがあるのだと思いました。

この女性教師は、その後茨田高校において、もっともピアメディエーションの発展に尽力された先生の一人で、現在もPMクラブの顧問であり、茨田高校の教頭になられた松井先生です。

 

3 チャレンジクエスト 

つぎに「チャレンジクエスト」(総合的な学習の時間)という2年生の選択授業において、ピアメディエーションを実施しました。具体的には、コンフリクトとコミュニケーションについて、ワークショップを行っています(1月25日、2月1日)。

内容的には、「聴くワーク」や「コンフリクトに対する態度についてのワーク」など、コミュニケーションの基本に関するものを中心に行いました。

この選択授業は、「自分たちの力による問題解決」というタイトルで、しかも担当教員が寺野先生だということから、生徒の中には、力づくで、すなわち「腕力」で問題を解決するワークと勘違いした生徒もいました。

正直このチャレンジクエストで何をすればいいのかよくわかりませんでしたが、当時シヴィルの会員でカウンセラーの筆保さんから、「聴くワーク」をしたらどうかという提案をいただきました。このワークは、研修などでよく行われているものでしたが、私は筆保さんに教えてもらうまで知りませんでした。具体的には、2人1組になって、一方が話をするのを、相手方が3つの指令に基づいて話を聴くという簡単なもので、急いですれば10分強で実施でき、場も盛り上がり、楽しくかつ聴くことのむずかしさを体感できる便利なものです。チャレンジクエストで実演したところ、生徒たちには大うけで、それ以降当時の中村教頭(※1)が何かにつけて「あれをやってくれ」とリクエストがかかるようになり、「聴くのワーク」はなにやら芸人の十八番にようになってしまいました。

 

1※中村教頭:体育の先生で専門はバレーボール。推進派の急先鋒で、よく言えば情熱家であり、その強力なプッシュにより、ピアメディエーションプロジェクトは3年で終わらず、その後も延々と続くことになった。後に茨田高校の校長に就任し、現在は芦屋大学教授。

 

4 生徒3人のピアメディエーション講座

 年度末には、3人の有志生徒に対する「ピアメディエーション講座」を実施しました(2007年2月7日 14日 21日)。これは、私が、生徒にピアメディエーシを体系的に教える初めてのケースでした。対象は、成績優秀でまじめな生徒2名と成績はクラスの下位のほうで少しやんちゃ系であるが、リーダーシップを取れる生徒1名でした(生徒は寺野先生が選択しました)。

 3日間の講座を行って、どの生徒もピアメディエーションの基礎的事項は理解することができましが、より実践的なコンフリクトの解決に向けたロールプレイで力を発揮できたのは、やんちゃ系の生徒でした。

 講座をやってみて、直感したのは、日本でもピアメディエーシを実践できるのではないかという点です。というのも、そのころ、日本でピアメディエーションを実現するのは無理との意見をよく言われていたからです。この反対意見は、臨床心理士や学校関係者に多かったのですが、特にたいへん高名な心理学者が、日本の子どもは、「団子だから」ピアメディエーションは無理だとの意見を述べられ、かなり胸につきささりました。しかし、3人の生徒とピアメディエーシを取り組んでみて、そうではないと感じたのです。やれるのではないかと。