なにわ橋法律事務所HPのリニューアルに寄せて

特定非営利活動法人 シヴィル・プロネット関西

事務局長 社 義宣

 

○司法制度の変革

 民事訴訟の迅速処理は長年の政策テーマとされながらも一向に改善されないままである。司法制度改革は裁判員制度の導入などの大制度改革を経て、よりいっそう国民のニーズに応える法制度へ、また国際的評価に耐えうる法運営の確立へ、いっそうの改革が求められる今日である。

 私は自民党のシンクタンクに在籍した経緯もあり、司法制度改革、なかでもADR(裁判外紛争処理)制度に関心を持ち、それを事業の柱に置いたNPOシヴィルプロネット関西(津田尚廣代表)の活動に参加し、現在事務局長を務めている。稲葉朋美先生や中坊公平先生の在籍された法律事務所と聞くにつけ、その陣容や職域の変化には格別の関心をもちながら、これまで20年間事務所に出入りさせていただいてきた。

 

○より良いトラブル解決を求めて

 NPOの事務所をなにわ橋法律事務所に移転して以来、津田禎三先生にもご縁をいただき親しくお話も伺った。タイムリーなテーマをもっての勉強会、徹真会など懇親の集い、一本締めで宴会を閉じるなどなど、実に腰の低い人間味あふれる法律事務所に、その名の通り大阪らしさを感じてきた。何よりも関心を持ったのは、初代津田勍先生は和解の達人、二代目禎三先生は交渉術に精通され、「友として支援」を掲げた一味違った弁護士業務が成されていることであった。

 2015年なにわ橋法律事務所100周年記念パーティに参加させていただいたおり、来賓の稲田朋美衆議院議員の挨拶が印象的であった。イソ弁の頃、禎三先生から「 解決出来ない問題はない」「問題解決のためには切り札を持ちなさい 」と教えられ、それを今も座右の銘としているとのお話であった。

 弁護士事務所も「専門性」が問われる時代である。しかし、「専門性」が深まることと、トラブル解決の成案、そしてその満足度は必ずしも一致しない。あくまで当事者の満足のいく解決策を追求するなら、紛争の全体像を把握した上で、適所に法律でメスを入れ、どこで相手側と折り合い、のちにも出来るだけ円満な関係性へと修復解決を図る「総合性」をもった対応が必要とされる。トラブルの全体像の把握には日頃の人間同士のおつき合いや人間性をもってなされる判断に寄って立つことが大である。勍氏は「津田総合法律事務所」の看板をあげられたと聞いた。人間同士の関係性を重んじ、専門家以上に友としての支援、そこにある人間味をもった「総合法律事務所」のあり方を追求されたことにこの事務所の特色と「切り札」を見る想いがしている。

 

◯新しい紛争予防・解決組織の設立へ動く

 ADR促進法施行10年を経て、現在様々な法務省認証ADR機関が全国で約150事業者で運営されている。IT化の進展でOnlineのADRも始まり、国境を越えた事案の処理もなされている。自然災害が相次ぎ、また想定外の事故が相次ぎ、若手の弁護士達がADRに目覚めたともいわれる。

 なにわ橋法律事務所開設100周年を一つの区切りに、2015年からなにわ橋法律事務所とNPOとの合同組織をもっての新たなADR機関設立を目指して動いてきた。その間に「ADR研究会」を結成し、そのニーズの調査を行ってみた。企業100社を対象に「企業間紛争、もめごと、トラブルに関する実態調査」のアンケートを実施しそれを分析した。その中で私達が留意したことは、企業が求めるトラブル解決は、迅速に、企業秘密の漏洩なく、相手側企業との関係性にも配慮しながら、出来るだけ「話し合い解決」でもって解決したいということであった。新しい紛争処理機関の特色として、1)トラブル予防にも取り組む、2)出来るだけ和解解決を旨として、しかし迅速な処理を行う。3)当事者の感情にも配慮しトラブルの総合的解決に努める、4)両当事者が直接対話し納得合意を目指すメディエーション解決での紛争処理を旨とする、5)両当事者の解決への主体的な取り組みをサポートしながら、その関係性の修復解決を行う、ことを考えながら、現在準備作業を重ねている。

 

○紛争管理人材の養成を視野に入れた取り組み

 禎三先生は「何かあればとにかく早く自分のもとに相談に来なさい!」と口酸っぱく力説されていたと聞く。そうした顧問先との強い関係性、連携をもって紛争、トラブルはなるべく早く処理、出来るだけ未然に防ぐという取り組みがなされていたわけだ。そうした日頃からの薫陶が、教導をもたらし、やがて担当者が現場でのトラブルの扱い方を会得していく。これからの企業内法務部の役割は、予防や人材育成、そして弁護士との連携が重要になってくるのではないだろうか。現在尚廣先生にはNPOの代表と、併せてピアメディエーション学会の専務理事のお立場で、紛争解決にあたるメディエーター養成のトレーニングを行っていただいている。

 法律的対応は紛争解決の一側面である。人間社会のトラブル事は常に起こり続ける。それをコントロールする力を組織全体で身につけていく「紛争管理」という考え方は、これからの日本の社会に必要とされるものである。学会の事務局もなにわ橋法律事務所に置き、この三年間、教育界を中心に行政組織とも連携してトラブル解決の新しいシステムづくりを志向してきた。

 今、尚廣先生と共に、EAPも含めメンタル、ピアメディエーションを土台にしたADR機関、そしてIT化処理システム、そうした未来型法律事務所の未来に向かって夢を膨らませている。新時代を牽引し時代を闊歩して来られたこの法律事務所の先達の偉業に想いを馳せながら、より良いトラブル解決の新ステージづくりに邁進する今日である。