堺の取り組み
2018年、大阪府堺市堺区では、堺市区教育・健全育成会議条例に基づく教育・健全育成会議が設置されました。会議の会長には、関西大学の杉本厚夫教授が選任され、シヴィルの山中さんが5人の委員のひとりに任命されました。山中さんは、ピアメディエーションの必要性・重要性を提起し、その結果、堺区の子を持つ親に対してピアメディエーションを教える親支援コーディネーター養成事業(以下親支援事業と言います)を立ち上げることが決まりました。
親支援事業におけるピアメディエーションの初級、中級は「Peer Do」というNPO法人が担当し、上級はシヴィルが担当することになりました。
地域におけるピアメディエーション ‥‥コミュニティメディエーション
コミュニティは、一般的には地域社会や共同体のことを指しますが、アメリカの社会学者であるマッキーバーは、コミュニティを一定の地域のうえに展開される自生的な共同生活と定義づけています。他方、「アソシエーション」という社会集団を概念し、それは、村落・都市などの基礎社会の中で、共通の利害関係に基づいて人為的につくられる組織であり、会社・組合・サークル・学校・教会のほか、家族も含まれるとします(1917年「コミュニティ」)。
学校や職場のピアメディエーションは、学校や企業というアソシエーションのなかで形成されるものであり、その成立基盤は、当該アソシエーションの共同の関心や共通の利害にあると言えます。すなわち、学校や企業は、共同の関心や共通の利害によって規制される一定の閉鎖空間であり、構成員の同質性があり、そのため情報の共有化が図られていることから、構成員に共有される価値観が醸成されます。
紛争に第3者が介入する場合、情報や価値観を共有しうる第3者が介入するほうが、よりセンシティヴに、より効率的に介入できるのであり、当事者にも一定の安心感やシンパシーがあることから、コミュニケーションの復活・促進に効果的です。すると、当該アソシエーションにおける紛争について、その構成員が第3者として介入することが優位であることは自明であり、その意味でピアメディエーションが紛争解決にきわめて効果的なのです。
したがって、一定規模の地域社会の場合、学校や職場ほどの濃密性がないとしても、同様の同質性、情報の共通性、価値観の共有性が認められますので、学校や職場でのピアメディエーションが成立する基盤と近い基盤があると言えます。
とするならば、地域の仲間が連携して、ピアメディエーションの取り組みを実践することは、一定の脆弱性を考慮しながら行えば、学校や職場におけるピアメディエーションと同様の効果が期待できます。
親支援コーディネーター養成講座(上級)
上級編は、2018年6月から7月にかけて(全5回)、25名の参加で、実施しました。場所は、堺市役所内の会議室です。
内容的には、価値観ワーク、失敗例から学ぶメディエーションの在り方、IPI分析、メディエーション技法、イントロダクション、ロールプレイング等です。上級編は、同様の内容で2019年にも実施しています。
この上級編の受講資格は、中級の受講修了が必要で、中級も初級の受講修了が前提でした。初年度の初級参加者が73人で、中級の修了者は31人でした。上級受講者は、非常に熱心で、上級終了後も何らかの形で、勉強したピアメディエーションを生かしたいと考えているかたが大半でした。
行政の課題も、そこにありました。研修を修了した人材を活用する場をどうするのかという点です。
とりあえず、シヴィルとしては、上級修了者で希望される人を、引き続き開催される初級、中級のファシリテーターとして活躍してもらうことを提案しました。
また、シヴィル独自に、修了生の関心の持てる場を提供する観点から、①ピアメディエーション学会の公開シンポジウムへの参加、②茨田高校の裁判所見学と勉強会への参加、③茨田高校のピアメディエーションの授業の見学を実施しました。
地域の仲間の連携 ピアエンパワーSAKAI
そのような活動を通じて、現在、上級修了者を構成員とするピアメディエーションを軸にした市民の組織としてピアエンパワーSAKAIという組織が結成されています。
ピアエンパワーSAKAIの設立趣旨は、地域社会における住民の対立・違いを地域のピア(仲間)を基盤にして解決するシステムづくりにあると思われます。
前述したように、コミュニティにおけるピアメディエーションは、集団の人間関係は学校・職場に比べると、希薄にならざるを得ません。したがって、課題として、学校・職場に比べて希薄な関係性をどう補完するのかという点があります。
この点、地域社会を単位とする行政との関係を持つことは有効な方法と言えます。ピアエンパワーSAKAIが、登録し、行政の活動に参加するのは有効な方法と言えます。
他面、行政との関係を持つ以上、その関わり方は注意を要します。シヴィルも過去にいろいろと行政と協同してきましたが、場合によってはいいように利用されたり、何かしようにも行政の縦割りに阻まれたりして消耗を強いられたことがありました。したがって、行政との距離感を図ることが重要となります。
いずれにせよ、コミュニティにおけるピアメディエーションは、行政の限界を市民の連携による「市民力」で乗り越えようとする新たな展開であり、今後の展開が注目されます。